Writer:安藤 隼人(アンドウ ハヤト)
Power BIとは? IoT向けサービス群での位置づけや活用事例などを解説
BI(ビジネスインテリジェンス)ツールとは、企業が蓄積しているデータを分析し、企業活動に活かすためのツールです。昨今では、情報システム部門に依頼せずとも業務部門がデータ分析を実行できる「セルフサービスBI」が注目されています。今回お伝えするPower BIは、このセルフサービスBIに分類されるMicrosoftの製品で、様々なデータを効率よく分析できます。
ネクストステップにおすすめ
「Power BI」の概要とMicrosoftのIoT向けサービスにおける位置づけ
まずは、Power BIが、MicrosoftのIoT向けサービス群でどのような位置づけにあるかを確認していきましょう。ここでは全体像がイメージしやすいように、以下のようなカテゴライズを実施しています。
- デバイスの接続:IoT Hub・Event Hubs
- データの処理:Stream Analytics・Functions
- データの格納:SQL Database・Blob
- データの整形:Batch・Cloud Services
- データの分析:Machine Learning・Data Lake Analytics
- データの可視化:Power BI
Microsoft Azure の IoT 向け PaaS (一例)
今回紹介するのは、「データの可視化」サービスの1つであるPower BIです。
Power BIの基本構成
Power BIは、Microsoftが提供しているセルフサービスBIです。抽出、変換、統合などのデータ処理後にレポートを作成して共有し、定期的に内容を更新していけます。さらにAzureサービスやOfficeと連携することで、資産全体の連携、分析など相乗効果を生み出します。
Power BIには5種類のツールが存在します。
- データセット移行から一貫して実施できる「Power BI Desktop」
- Power BI Desktopで作成したレポートをAzureで共有して更新や編集、参照ができる「Power BI Service」
- Power BIコンテンツをWebやモバイルデバイスで参照・分析できる「Power BIモバイルアプリ」
- Power BI サービスでページ分割された見栄えの良いレポートを作成する「Power BI Report Builder」
- Power BI Desktop で Power BI レポートを作成して発行できるオンプレミスのサーバー「Power BI Report Server」
データセットとは、データそのものやデータソースへの接続設定を指します。CSVファイルやExcel ファイル等、データそのものがデータセットとなる場合、接続設定がない場合もあります。DBやサービスなどの定期的に更新されるデータの場合は、接続設定が必要です。
またPower BIのライセンスには「Power BI(無料版)」「Power BI Pro」「Power BI Premium」の3種類が存在し、それぞれ以下の特徴があります。
Power BI Free (無料版)
作成したレポートは個人使用が前提であるものの、「Power BI Desktop」「Power BIサービス」「Power BIモバイルアプリ」「Power BI Report Builder」は使用できるので、一通りのPower BIの基本機能が利用できます。Power BIを使ってみたいという人は、無料版のライセンスで使用を検討できるでしょう。また個人でのみ使いたい方は、問題なくPower BI Freeで業務に対応していけます。
Power BI Pro
Power BI Free(以下Free)とPower BI Pro(以下 Pro)の大きな違いは「データやレポート、ダッシュボードを複数人で共有できるかどうか」という点です。またProでは、「ワークスペース」と呼ばれるレポートやデータセットなどを共同作業できる場所を作成できますので、複数人のチームで作業をする場合にはProが必須です。
Power BI Premium
Freeの4つの機能に加え「Power BI Report Server」が利用できますので、機密性が高いデータをオンプレミスなどで運用・共有したい場合に向いています。またPower BI Premium(以下Premium)では、ユーザー単位ではなくノード単位でユーザーに閲覧権限をつけられるため、特定の数端末での閲覧であれば、ProとPremiumをうまく併用することでライセンス費用を削減できます。
また無料版とProで10GB/ユーザーの制限があったストレージ容量が、Premiumは100TB/ノードになりますので余裕をもった大容量のレポート作成が可能です。
Power BIのメリット
Power BI は、情報システム部門に依頼せずとも業務部門がデータ分析を実行できる「セルフサービスBI」の一種であり、メリットが多数あります。順番にみていきましょう。
プログラミングの知識がなくてもレポート作成可能
従来のBIツールを使いこなすには、プログラミングの知識が必要不可欠でした。そのため、業務部門でデータを分析したい場合には情報システム部門に依頼を出すことが一般的になっていました。これではオンデマンドにタイムリーな分析は実施できません。
そこでPower BIでは、Microsoftが提供しているセルフサービスBIを利用して、・抽出、変換、統合などのデータ処理や、レポートの作成・共有までプログラミングの知識がなくても対応できるようになっています。ただし、データ分析の知識や業務知識は必要なので注意しましょう。
簡単にデータをグラフ化・モデル化できる
一般的な表計算ソフト、例えばExcelなどでレポートをまとめる際にデータをグラフ化することは、グラフやモデルを一つずつ作成する必要があり、非常に煩雑な作業です。しかし、Power BI Desktopのデータモデリング機能を使用すれば、複数のデータを組み合わせて、手早くグラフを作成していけます。
柔軟なデータ接続
Power BIは、クラウドやオンプレミス問わず接続可能です。Excelはもとより、SalesforceやOracleなど、様々なデータ形式をグラフにしていけます。
Power BIの利用事例
ここからは、実際にPower BIを導入した事例をみていきましょう。
事例1:Power BIでチャットボットの精度向上を短期間で実現
新型コロナウイルスの影響でチャットボットを導入した企業は、チャットボットのデータ分析にPower BIを活用しました。当初はFAQのデータをAIに学習させていけばよいと考えていましたが、ユーザーからの質問は、想定した以上に様々なパターンの言い回しがあり、精度向上は困難を極めました。そこで、Power BIを使用してログを解析し、レポーティングを自動化することで、直近の正答率や、質問の傾向をすぐに分析できるようになりました。結果として、正答率向上に繋がっています。
事例2:ES調査にPower BIを使用してレポート作成工数を4割減
ES(従業員満足度:Employer Satisfaction)調査」のサービスを提供するHRコンサルティング会社は、Power BIを利用してレポーティング環境を刷新しました。レポートは案件ごとに一から作成していて、膨大な時間がかかっていましたが、Power BIの管理画面でサービス結果を提供するように変更しています。Azure Active Directory Premium (AADP)と連携することで、データへのアクセス権限をGUIベースで柔軟に設定できるため、人事部門や現場部門で権限を分けた運用が可能となりました。また、Power BIでレポート作成時の手戻りの煩雑さを解消して作成工数を4割削減し、繁忙期でも顧客に問題なく高品質なサービスを提供できています。
事例3:Power BIで情報管理の見える化と効率化へ挑む
とある製造業では、工場から販売店までの情報を集約したデータ分析基盤の構築を実施することになり、Power BIを含めたAzureの基盤が採用され、Power BIと他のサービスを使ってデータの分析や加工を容易に実施できる仕組みを実現しています。コーディングの必要がない構成を基本思想とし、かつAzure各サービスが扱いやすいサービスのため、誰でも使えるシステムに仕上がっています。現状はデータを活用した改善に取り組んでいる段階ですが、今後はこの仕組みをグローバルに展開していく活動を加速させていく方針とのこと。今後のデータ活用に全社の期待が寄せられています。
Power BIの料金について
既に述べた通り、Power BIには、「Power BI Free」「Power BI Pro」「Power BI Premium」の3つのプランが存在し、レポートを参照する人数が多い場合は、ProプランとPremiumプランを併用するとライセンス費用を抑えられることもあるでしょう。
無料プランについては「コンシューマーおよび無料ライセンスを持つその他のユーザー向けの Power BI 機能の一覧」を、ProプランとPremiumプランについては、「Power BI 価格」をご覧ください。
Power BIで効率的な分析を
Power BIは、抽出、変換、統合などのデータ処理を実施し、レポートを作成して共有できるセルフサービスBIです。プログラミングの知識がなくてもレポートを作成可能で、簡単にデータをグラフ化できます。分析の際に情報システム部門への依頼が不要になるため、分析対応がスムーズになり、レポート作成工数を大幅削減できた事例もありました。データの分析やレポート作成に悩む企業にとっては非常に有用なサービスといえるでしょう。
Power BIで煩雑なデータを整理し、効率的な分析を実施していきましょう。