Writer:手戸 蒼唯(てど あおい)
IoTにおけるセンシング技術とは何か。課題と活用事例を解説
昨今、製造現場や物流、商業施設などをDX化し作業効率や生産性向上を目指す動きが活発になっています。また収集したデータをAI技術と組み合わせ、人手不足の解消につなげるという事例も出てきています。
ただ、それらの技術を導入するといってもそもそも何ができるのか、どのような流れで導入を進めていけばよいのかがわからないという方も多いのではないでしょうか。
本記事ではIoTにおけるセンシング技術とは何か、導入における課題や活用事例、導入までの全体の流れを紹介します。自社の設備のIoT化やセンシング技術の導入による効率化を目指したいという方は、ぜひ参考にしてください。
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IoTに必須のセンシング技術とは?何ができるのか
IoTとは「Internet of things」の略で、通信技術を用いてモノとインターネットをつなげ、状況の監視や遠隔操作などを行う技術の総称です。IoTにより、設備状態のリアルタイムな監視や、得られたデータをもとにした改善策を講じることが可能になります。
IoT化を行う際、環境のあらゆる状態を定量的に数値化するのに必要なのが、センシング技術です。
センシング技術の定義・概念
センシング技術とは、センサーを用いて環境中のさまざまな情報を数値化し、状態を「見える化」することをいいます。
センシング技術を活用すれば、人間が五感で認知している情報を定量的に数値で表すことができ、さらに制御と組み合わせることで常に一定の状態を作り出すことが可能になります。身近な例でいえば、人感センサーによる自動扉の開閉やエアコンによる温度、湿度の調整などがあげられます。
センシング技術の分類
センシング技術には大きく分けて「スマートセンシング」と「リモートセンシング」の2種類があります。
スマートセンシング
スマートセンシングとは、センサーを対象物付近に設置し、測定を行うことをいいます。例えば温度センサーを用いて物体の温度を常時測定する、光電センサーを用いて製品の通過した回数をカウントするなどは、スマートセンシングに分類されます。
一般的に「センシング技術」と呼ばれる場合、このスマートセンシングを指すことが多いです。
リモートセンシング
リモートセンシングとは、対象物に触れることなく遠隔で測定することをいい、人工衛星などを用いたセンシング技術を指します。例えば遠赤外線センサーを用いて地表の温度状況を可視化するなどといった場合は、リモートセンシングに分類されます。
スマートセンシングと比較すると対象範囲が広く、製造現場の改善などに利用されることは少ないといえます。
利用されるセンサーの種類
センシング技術には、主に次のようなセンサーが利用されます。
温度センサー | 温度による金属の抵抗値の変化等により物体の温度を数値化できる。接触式、非接触式などさまざまな方式がある。 |
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圧力センサー | 感圧素子の電圧の変化により圧力を数値化できる。 |
流量センサー | 超音波や電気抵抗、流体の圧力差等を用いて流量を数値化できる。測定する流体の特性によりさまざまな方式がある。 |
レベルセンサー | 電極や水頭差を利用して液面の高さを数値化できる。 |
湿度センサー | 感湿材の静電容量や抵抗値の変化から湿度を数値化できる。 |
画像センサー | カメラで撮影した画像から対象物の有無を判別できる。 |
電流センサー | 抵抗や磁場を用いて回路中の電流を検出できる。 |
電力センサー | 電圧と電流の値から単位時間当たりの電力や電力量を算出できる。 |
加速度センサー | 物体の速度の時間変化を測定できる。 |
光電センサー | 投光部より光を発射し受光部で検出することで物体の通過を検出できる。 |
振動センサー | 水晶振動子などにより振動の周波数等を検出できる。 |
これら以外にもさまざまなセンサーがあり、測定対象の状態や性質に応じて組み合わせることで、あらゆる情報を定量化できます。
センシングで収集したデータをAI、IoTで利活用
IoT化によるセンシング技術を利用することでさまざまなデータを収集することができますが、一方で「収集したデータを活用したいがどうしたらよいかわからない」という場合があります。
このような課題を解消するために、AI技術を利用するという動きが活発になっています。
例えば、ある設備が正常に稼働している状態をセンシング技術により数値化し、それらをクラウド上で傾向監視しながら、教師データとしてAIに学習させます。それにより、異常な傾向が見られたら故障する前に警報を発し、傾向を再度学習させることで異常検知の精度を向上させるというAI技術が開発されています。
AIとセンシング技術の組み合わせにより、設備の故障後の保全ではなく、傾向が表れた段階での予知保全が可能となるわけです。
昨今の人手不足のなか、熟練工の勘に頼らざるを得ないという従来の設備保全の課題が、こういったAI技術の導入で解消されるのではないかと期待されています。膨大なデータから傾向を読み取り判断するという熟練工の勘のプロセスはAI技術との親和性が非常に高く、今後もあらゆる分野で開発が進むと予想されます。
センシングしたデータを分析することで実現できること
IoT化やセンシング技術の導入を行うと、次のような効果が期待できます。
品質管理レベルの向上
これまで目視など人間の主観に頼って担保していた品質をセンシング技術により定量化することで、人による結果のバラつきをなくし、誰でも同じ基準で判断できるようになります。また、製品不良が発生した際も、さまざまなデータを比較検討して傾向を監視することで不良発生の要因を分析、対策を講じることも可能になり、不良率の低減が期待できます。
設備保全の効率化
設備の運転状態など、従来は人が巡回点検を行い、結果を手入力していた保全業務をセンシング技術にて一元管理することで、業務を効率化することができます。これにより目視記録による転記間違いや主観によるバラツキも無くせるので設備保全レベルも向上し、熟練者でなくても精度の高い設備管理を行えます。
また、故障発生後の事後保全では、設備を一時的に休止せざるを得なかったものが傾向監視による予知保全により、設備の定期修繕時に合わせて修理を行うなど、生産設備の安定稼働につなげることもできます。
生産性の向上
多品種少量生産の工場などでは、センシング技術を活用して設備の稼働状況をリアルタイムで把握し、生産品種の組み換えを行うことでモノの滞留をなくし、生産性を向上させることができます。ほかにも作業者の動きをセンシング技術により見える化し、危険な作業を改善することで事故などを事前に防ぐことができたという事例もあります。
データの活用によるコストカット
センシング技術により収集したデータを活用することで、さまざまなコストカットを実現できます。例えば、工場内の設備ごとの電力、水、空気などのユーティリティ使用量と稼働状況や生産量を比較することで、待機電力や計装空気の漏れなどを可視化することができます。これらの要因を特定し、改善につなげれば製品のエネルギー原単位を低減することができ、コストカットが可能です。
センシング技術によりあらゆる状況が可視化されれば、従来は気づかなかった無駄の発見が期待できます。
企業における、センシング・IoT化・AI導入の実施例
ここではIoTやセンシング技術を用いて実際に改善を行った事例をご紹介します。
生産プロセスの最適化
製造業の生産プロセスでは、センシング技術を用いて機械の状態を監視、故障の予知保全、管理コストの低減などがよく行われています。
例えば、1時間当たりの生産個数を増やすために設備の停止時間や製品組み換えにかかる時間を正確に把握し、それらの時間を1回当たり数秒間短縮することで年間百万円以上の損失回避につながったという事例があります。このように普段何気なく対応している小さなトラブルも、数値化されてデータとして見れば大きな損失となっていることが見つかり、いかに着目する観点を変えられるかが重要になります。
出典:DX SQUARE「まずは「デジタルで楽をする」旭鉄工の事例から見る製造業のDX」
物流とサプライチェーン効率化
物流やサプライチェーンという観点では、工場では故障するとすぐに交換する必要がある部品を予備品として保管しておく必要がありますが、すべての部品を保管しておくのは保管環境やスペースの関係で難しい場合があります。これらをIoT化により全国のほかの工場や部品メーカの在庫状況をオンラインで監視することで、リアルタイムな部品の供給体制を構築していくという事例が増えています。一つの工場で完結させるのではなく、ほかの工場の状況をリアルタイムで共有することで在庫を減らし、保管費なども削減することが可能となります。
スマートビルディングなど、建物への活用
センシング技術を利用して使用状況、電力量、温度、湿度など建物のあらゆる状態をシステム上で一元管理できるビルは「スマートビルディング」と呼ばれ、昨今のビルの多くに導入されています。スマートビルディングでは人感センサーを利用して、人が居ない設備の照明の切り忘れを防止する、人の密集状況により空調の設定をこまめに変更するといった対策を行うことで、使用エネルギーの低減化が実現できます。
ヘルスケアへの活用
センシング技術は医療などのヘルスケア分野でも導入が増えています。例えば、専用の機器とインターネット環境があれば患者の体温や心拍数、血流などをリモートでモニタリングできます。この数値を利用して通話アプリなどで医師が問診を行えばリモートで診察を行うことが可能になります。これにより頻繁に通院することのできない障がいのある方や高齢者、また遠方の方でも診療を受けられるようになります。
農業などの一次産業分野への活用
農業では気候や災害により毎年の生産量や品質にバラつきが出るのが一般的ですが、建屋のなかで光度、温度、湿度、給水、堆肥などをすべて数値で監視し、年間を通じて安定的な生産を行うという「スマート農業」へ進出する企業も増加しています。天候に左右されないだけでなく、建屋内で栽培を行うことで農薬の使用も控えることができ、食の安全性の観点からも注目されています。
センシングを導入する際のよくある課題
IoT化、センシング技術の導入によくあがる課題として次のような課題があります。
データの収集方法が分からない
日本の製造現場では10〜20年以上前の設備が今でも稼働しているケースが多く、センサーなどが付いていないものがほとんどなので、どのデータを収集すれば改善ができるのかわからない場合が多いものです。また、単にセンサーを設置するだけではなく、通信環境の構築やデータ収集ソフトの導入などの検討も必要であり、すべて1から立ち上げるのは専門家でない限り難しい場合がほとんどです。
どのようなデータを収集すべきかわからない
センシング技術は非常に幅広く、多くのデータを定量化することができます。しかし、あらゆるデータを収集するにはセンサーや通信機器の数も膨大になり投資額も大きくなるため、どのデータを収集すべきでどのデータは不要かという取捨選択が必要です。ただ、これまでセンシング技術を活用した経験がなければ、どのデータが改善につながるのかわからないという場合が多く、センシング技術導入の大きな課題となっています。
収集したデータの活用方法がわからない
センシングにより収集できるデータは単なる数値の羅列であるため、収集したデータをグラフ化し、その傾向を分析し、改善策を講じなければ意味がありません。ただ、実際にはどう活用すればよいかがわからず、単にデータを収集しただけという状態になることもあります。まずは、解消したい課題や達成したい目標などを明確にすることが何よりも重要です。
IoT化、センシング技術導入までのステップ
これらの課題を解消するため、センシング技術の導入には次のようなステップが必要になります。
現状の把握と目的の明確化
まず重要なことは、現状の把握と目的の明確化です。例えば目的が生産性の向上であれば、現状では単位時間当たりどの程度が生産できているのか、ネックとなっている項目は何か、それらを改善するためにどのようなデータを収集すれば効果が得られそうか、といった検討が必要です。こういった目的をIT部門だけではなく製造部門などの他部門とも共有し、全社的な課題として取り組むことが重要です。
必要な機器の仕様、投資額の算出
設定した目的を達成するためにどの程度の精度の機器が必要か、どこまで範囲を広げれば全体が把握できるかなどを明確にし、投資額を算出します。センサーや通信機器は精度や取得点数により費用が大きく異なるので、そもそもそこまでの精度は必要か、効果が出た場合、それだけの投資金額を回収できる見込みはあるかなど詳細な検討が必要となります。
これらは自社のみで把握することは難しいため、IoT環境の構築やセンシング技術の導入実績が豊富な企業に相談しながら決定するのが一般的です。
機器の導入と活用
機器の仕様が決まれば、導入して活用します。センシング技術は導入したものの使い勝手が悪く、結局活用されないという事例もあります。導入後は収集したデータを積極的に活用し、取得したデータをどう利活用するかを検討します。また、稼働初期は通信エラーなどデータの取得がうまくいかない場合も多く、安定的に収集できるまで根気強く対応する必要があります。
導入結果の検証と展開
実際にある程度のデータを収集したら、それらのデータによってどのような知見が得られたか、また、導入目的は達成されたのか検証します。そして、結果が得られたことが確認できれば、同様の機器をほかの機器へ横展開しさらにIoT化を進めていくという流れになります。まずはもっとも効果が得られそうな箇所に限定してスモールスタートさせるのが有効なやり方です。
必要かつ無駄のないセンシング技術を導入するなら
IoT化やセンシング技術の導入において失敗しないためには、見える化の先に何を達成したいのかを明確にし、範囲を広げすぎず、適切な機器やソフトによりスモールスタートさせて結果が出れば展開していくという流れが重要です。
一度にすべてをやり切ろうとするのではなく、時間をかけて少しずつ知見をためていくという考え方が必須になります。
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