Writer:手戸 蒼唯(てど あおい)
IoTにおけるデータ収集とは。企業の抱える課題と解決策を解説
IoT技術は、日常生活から産業界に至るまで、さまざまな「モノ」の相互通信を実現し、革新をもたらしています。IoTによる自動制御や情報収集を可能にすることで、作業効率の向上、コスト削減、サービス品質の向上など、企業が目指す多くの目的を実現します。
しかし、IoTの導入にはデータの選定、収集、活用方法の理解という課題があり、それらを解決するためには総合的なアプローチが必要です。
本記事では、IoTにおけるデータ収集の目的、種類、方法、課題、実際の活用事例について解説します。
ネクストステップにおすすめ
IoTの基礎知識
まず初めに、IoTとはなにか、IoTの導入によりできることなど、IoTに関する基礎知識について理解を深めましょう。
IoTとは
IoT(Internet of Things)とは、インターネットを介してさまざまな「モノ」がデータを交換する技術やシステムの総称です。
IoT環境を構築することで、センサーや機器などのデバイス同士が相互に通信を行い、自動制御や情報収集が可能になります。IoTの導入により、日常生活から産業界まで幅広い分野で革新が進んでいます。
IoTを導入する目的
企業がIoTを導入する主な目的は、作業効率の向上、コスト削減、サービス品質の向上などです。
例えば製造業では、生産ラインの効率化、設備の遠隔監視、装置の予知保全など、いわゆるスマート工場を実現する手段として活用されています。
また、近年ではAIと組み合わせることで、過去データに基づいた生産体制の構築が可能となりました。目視検査の省人化や熟練者の技術の可視化による属人的な運用の見直しにも活用されています。
IoTで収集できるデータの種類
IoTで収集できるデータの種類は、温度、湿度、気圧、振動、音、光、位置情報など、目的にあわせて多岐にわたります。
収集データを組み合わせることで、例として次のようなシステムが開発されています。
- 行動履歴:ICカードや端末IDと施設内の地図情報を組み合わせることにより人の行動を見える化
- 画像・映像:カメラ撮影による過去の正常データと不良データを学習したAIによる製品不良の判別
- 在庫情報:物理的に離れた工場など全体の在庫データをコードやタグによって一元管理
- 生体情報:ウェアラブルデバイスによって、従業員の熱中症予防や健康管理の実施
- 環境情報:湿度・温度・照度センサーによる労働環境の整備や、食品・製薬工場などでの製品の品質管理
収集した複数のデータとAI技術などを組み合わせることで、さまざまな社会課題を解決することが今後も期待されています。
IoTでのデータ収集に関する課題
IoTのデータ収集における課題は、技術的な側面から経済的な側面まで多岐にわたります。
IoT環境を構築し、データ収集を開始したものの、期待した効果が得られていないというケースも少なくありません。
こういった事態を避けるためにも、事前に課題を理解し、対策を行うことが重要です。
ここではIoTでのデータ収集について、企業が陥りやすい課題を具体的にみていきましょう。
収集すべきデータが分からない
IoTを導入しデータ収集を行う際の最初のポイントは、達成したい目的に対してどのデータを収集すべきかを決定することです。
多くの企業では、利用可能なデータの量が膨大であるため、すべてを収集しようとするとネットワーク負荷や多額の通信料がかかってしまいます。そのため、収集すべきデータを選別する必要がありますが、そもそもどのデータを収集すればよいのか分からないことが課題として挙げられます。
データの収集方法が分からない
多くの企業では社内に専門家がいないため、データをどのように収集するか、どのIoTデバイスを使用すればよいか、通信方式はどのように構築するのかなど、データ収集についての知識が不足していることがあります。
IoT技術を導入する際は、センサーの種類、配置、収集するデータの量や頻度など、IoT技術の導入について経験豊富な専門家と相談しながら進めるとよいでしょう。
収集したデータの活用方法が分からない
データを収集した後の活用方法が明確でないと、収集したデータが無意味なものとなってしまいます。
事前に、収集したデータにどのような傾向があればどのように対策を打つのかを想定して、データ収集を行うことが重要です。
採算が合わない
IoTでデータ収集を行う場合、センサーなどの機器やネットワーク環境の構築を行うための通信デバイスなど、初期投資が必要になります。しかし、投資に対する直接的なリターンを見積もることが困難な場合があります。
そのため、初期段階で多額の予算を投じるのではなく、効果が期待できそうな箇所を選定し、スモールスタートさせることが重要です。
データ収集を円滑に進めるポイント
IoTでのデータ収集を円滑に進めるためには、これらの課題を把握し、専門家と相談しながら、スモールスタートができるか、運用コストが採算にあっているか、PoCから本番稼働に移行できる拡張性・柔軟性があるか、などを考慮することが必要です。
東京エレクトロンデバイスのご提供する「IoT INSIGHT CaaS」では、IoTデバイスの導入実績が豊富な専門家と共に最適な運用方法を検討しながら、低コストでデータ収集を始めることが可能です。
IoTでデータ収集を行うまでの流れ
IoTを利用したデータ収集を行う場合、主に次のような流れで導入が進められます。
(1)データ収集の目的の明確化
まず、データ収集を行う目的を明確にしましょう。
データを収集することで何を達成したいのか、どのような問題を解決しようとしているのかなど、具体的な目的を把握します。
例えば、設備の稼働状況を見える化したい、製品の生産状況を監視したい、設備の故障を予知した保全を行いたいなどです。
そのうえで、データの傾向によりどのような対策が打てるのか事前に想定しておくことが重要です。
(2)収集するデータの選別
データ収集の目的が定まれば、達成のために必要なデータの種類を特定します。温度、湿度、振動、圧力、電流、製品画像など、収集すべきデータは目的によって異なります。
収集したデータを分析する際には、別のデータが必要となることもあります。そのため関連データはできるだけ収集しておくことが重要です。
(3)IoTデバイスの選定と設置
収集するデータの種類が決まれば、それを測定するための適切なIoTデバイスを選定し、設置します。
デバイスの選定には、収集するデータの種類だけでなく、有線か無線かといった設置環境や電気工事のコストなども考慮する必要があります。
デバイスが設置されると、実際にデータの収集が始まります。
(4)収集したデータの可視化と分析
データが収集されたら、それを分析しやすい形に加工し、可視化します。
同じデータでも観点を変えれば別の仮説が得られることもあるため、複数の視点からデータを分析することが重要です。
(5)改善策の実行と効果検証
最終的には、分析結果に基づいて具体的な改善策を実行し、その効果を検証します。
改善策の効果が目的に沿ったものであるかを評価し、必要に応じてさらなるデータ収集、分析を行います。これらのプロセスを繰り返すことで、持続的な改善が実現されます。
対象範囲を絞り、一連の流れを実行した後、効果が期待できれば他の場所にも展開していくという流れが一般的なアプローチの方法となります。
IoTでデータ収集を行う方式
IoTデバイスでデータ収集を行う方式には、大きく分けて有線接続と無線接続の2種類があります。それぞれの方式の特徴は以下のとおりです。
有線接続
有線接続では、物理的なワイヤーケーブルを使用して、電流信号や電圧信号によりデータ通信を行います。
有線接続のメリットとしては、安定した高速通信が挙げられます。
また、無線接続と比較すると干渉やデータ損失のリスクが低く、セキュリティ面でも優れているといえるでしょう。
一方で、センサーの設置には配線が必要であり、設置数も制限されることから、後からの変更や拡張が難しいというデメリットも挙げられます。
無線接続
無線接続では、Wi-Fi、Bluetooth、LoRaWANなどの無線技術を用いてデータ通信を行います。
無線接続のメリットとしては、設置や拡張の柔軟性が高く、迅速な展開が可能なことが挙げられます。
また、配線工事ができない場所や移動する機器からのデータ収集にも適しています。
一方で、通信の安定性やセキュリティ、電力消費に関する課題などがある点も理解しておきましょう。
どちらの方式が適しているかは状況により異なりますが、遠隔での制御などを行わず、データ収集のみを目的とする場合は、コストや拡張性の観点から無線接続が選択される場合が増えています。
収集データの保存先
収集したデータの保存先としては、主にローカルサーバーとクラウドの2種類があります。それぞれの特徴は以下のとおりです。
ローカルサーバー
ローカルサーバーへのデータ保存は、セキュリティの強化を求める場合に適しています。
ローカルサーバーのメリットとしては、データへのアクセス速度が速く、インターネット接続がない、もしくは不安定な環境でもデータ管理が可能なことが挙げられます。
一方で、初期の設備投資が高額であり、データを抽出できる場所が制約されるというデメリットがあります。
また、ストレージの拡張性や災害時のデータ損失リスクも考慮する必要があるでしょう。
クラウドストレージ
クラウドストレージは、柔軟性と拡張性に優れ、初期コストを抑えられることが大きなメリットです。
データの量が増加しても柔軟に対応でき、リモートからのアクセスや共有が容易になります。
選択に際しては、データの機密性、プロジェクトの規模、予算、そして将来的な拡張の予定などを総合的に考慮する必要があります。
また、複数の保存先を組み合わせるハイブリッドなアプローチを取ることも、柔軟性とセキュリティのバランスを取る有効な手段です。
IoTを使ったデータ収集の注意点
IoT技術を活用したデータ収集を行う際には、以下の点に留意しましょう。
データの正確性と品質
IoTデバイスから収集されるデータの正確性と品質は、分析結果の信頼性に直結します。
不正確なデータや低品質のデータが収集された場合、それに基づく意思決定や予測は誤った方向に導かれる可能性があります。
そのため、センサーの定期的な校正や通信環境の確認などを行い、データの精度を確保し、品質管理を徹底することが重要です。
データの互換性
異なるメーカーやモデルのIoTデバイスから収集されるデータは、フォーマットが統一されていない場合があります。データの互換性の欠如は、データ統合や分析を複雑化します。
データの互換性を確保するためには、統一されたフォーマットでのデータ収集や、異なるフォーマットのデータを統合するための仕組みが必要です。
複数のメーカーの機器を組み合わせる場合には、データの拡張子などに注意して互換性を確認する必要があります。
収集エラーの対応
IoTデバイスや通信ネットワークに障害が発生すると、データ収集にエラーが生じることがあります。
収集エラーに迅速に対応するためには、障害検知システムの導入や、エラー発生時の自動通知設定など、事前の対策が求められます。
特に導入初期段階では環境が安定せず、通信エラーなどが発生しやすいので注意が必要です。
メンテナンス性の考慮
IoTデバイスは、長期間にわたって安定してデータ収集を行うために定期的なメンテナンスが必要です。
デバイスのバッテリー寿命、耐久性、更新やアップグレードの容易さなど、メンテナンス性を考慮したデバイス選定が、運用コストの削減やシステムの安定稼働につながります。
IoTデバイスのセキュリティ
IoTデバイスがセキュリティ上の脆弱性を持っている場合、ネットワーク全体のセキュリティが強固であっても、マルチウェアやウイルス感染のリスクとなる可能性があります。
長期間安定的に運用するためには、IoTデバイス自体のセキュリティを強化し、定期的なファームウェアの更新や適切なセキュリティ設定を行うことが重要です。
IoTでのデータ収集活用事例
IoTでのデータ収集はさまざまな業界で行われ、効果が検証されています。ここでは、各業界における代表的な取り組みについて紹介します。
製造業における事例
製造業では、IoTデバイスを通じて機械の稼働状況や製品の生産状況の分析などが行われています。生産状況を分析することで、生産ラインの効率的な運用方法の検証が可能です。
また、稼働時間の管理による機器の故障予測やメンテナンスの最適化により、突発故障によるダウンタイムの削減と生産効率の向上を実現しています。
他にも、製品の画像データを分析することによる不良品の自動判別など、製造業におけるあらゆる場面でIoTにより収集したデータの活用が行われています。
農業分野における事例
IoT技術を活用して生産性の向上を目指す農業のことを「スマート農業」といいます。近年では、国の政策としても農業分野におけるIoT技術の導入が推奨されており、大きな注目を集めています。
農業分野においては主に、温度、湿度、気圧、水分率、pHなど環境の状況を数値化できるセンサーを使用して、データ収集が行われています。
土壌の状況やハウスの温度などをリアルタイムで監視し、必要に応じて自動で空調制御や灌水、施肥を行うシステムが開発されています。
人手不足や食料自給率の観点から、スマート農業化は今後も進められていくことが予想されます。
物流業界における事例
物流業界ではGPSのデータを利用した貨物のリアルタイムな位置情報把握や、温湿度の測定による状態監視などが行われています。これにより、配送効率を向上させたり、輸送中の問題に迅速に対応したりできるようになりました。
他にも、倉庫内の在庫状況の管理や積み荷の自動化などにもIoT技術が導入されています。
今後、自動運転技術などの開発により物流業界の自動化にはさらなる革新が期待されています。
小売業界における事例
昨今の商業施設では、IoT技術を用いて電力消費のリアルタイムモニタリングが行われています。電力消費量のデータを収集・分析することで、エネルギー効率の向上とコスト削減を実現しています。
また、人の密集度により空調の設定を自動で変更するなど、快適な環境の構築にもIoT技術は利用されています。
建設業界における事例
国内大手総合建設会社(スーパーゼネコン)の鹿島建設では、マンション建築現場で東京エレクトロンデバイスの「IoT INSIGHT CaaS」を導入し、建築現場の「窓閉め確認作業」の効率化を実現しました。このシステムにより、窓枠に設置されたセンサーで窓の開閉状況を検知し、リアルタイムに通知することで、現場担当者の目視確認作業の負担を大幅に軽減しました。
出典:東京エレクトロンデバイス「鹿島建設「IoT INSIGHT CaaS」で建設現場の「窓閉め確認作業」効率化を実現」
医療業界における事例
医療業界では、患者の健康状態をウェアラブルデバイスでリアルタイムにモニタリングし、収集したデータを基に医師が遠隔で診断や治療計画を立てるといった試みが行われています。
これらは、慢性疾患の管理や高齢者ケア、医療機関の乏しい僻地医療などに革命をもたらしています。
インフラ業界における事例
都市インフラの管理にもIoT技術が活用されています。
公共の照明や交通システム、廃棄物管理など、都市のさまざまなサービスを効率的に管理し、市民の生活の質の向上とエネルギー消費の削減を目指しています。
エネルギー分野では、スマートメーターやエネルギー管理システムを通じて、消費者のエネルギー使用パターンを分析し、電力供給の効率化を図っています。
IoTを活用し、効果的なデータ収集を行うなら
IoTによるデータ収集を行う場合には、単にデータを収集すればよいわけではありません。長期的な運用方法の確立や収集データの選定など、総合的な計画を立てる必要があります。
また、IoTによるデータ収集を進める際には、高額な導入コストが懸念されるかもしれません。収集したデータを有効活用できるかが不透明な状態で高額な初期投資を行うにはリスクが伴います。
そのため、まずは小さな領域で投資コストを抑えながらスモールスタートさせることが重要です。
これらの課題を解決するサービスとして、東京エレクトロンデバイスがご提供している「IoT INSIGHT CaaS」では月額3,000円からスモールスタートが可能です。基本的には開発なしですぐにお使いいただけるため、スピーディーな導入が実現できます。
データの互換性の統一や拡張性、収集データのグラフ化などを容易に実現させることが可能です。また、導入後に開発が必要な場合は、別途専門のエンジニアが対応します。
IoTによるデータ収集を推進したいがどんなことができるのかわからない、最小限の投資でまずは試してみたいという方は、ぜひ東京エレクトロンデバイスにご相談ください。