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2025/4/30

Writer:手戸 蒼唯(てど あおい)

製造業必見!フィールドサービスの効率化と品質向上の実践ガイド

フィールドサービスとは、製品や設備の保守・メンテナンス、修理、点検などを顧客先で行うサービスです。特に製造業のフィールドサービスは、大きな転換期を迎えています。人材不足や技術継承の課題、そして顧客からの高度な要求に直面する中、デジタルトランスフォーメーション(DX)による革新が進んでいます。2024年の富士キメラ総研が発表したDX関連国内市場調査によると、製造業のDX市場規模は2022年度見込みで2,990億円、2030年度予測は8,130億円としており、約2.7倍の増加が予測されています。

保守・メンテナンス業務のデジタル化率も上がっており、フィールドサービス分野での導入も加速しています。本コラムでは、フィールドサービスの役割から、品質向上と業務効率化のためのポイントを現場で即実践できる方法を交えながら詳しく解説します。

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フィールドサービスの役割と業務内容

製造業におけるフィールドサービスは、製品や設備の保守・メンテナンス、修理、点検などを顧客先で行います。その役割や業務内容、求められるスキルを説明します。

フィールドサービスが果たす役割

フィールドサービスは、製品の安定稼働維持と顧客満足度の向上に加え、アフターマーケット収益の創出という重要な役割を担います。企業によっては新規販売よりもアフターサービスからの収益が上回るケースも増えており、ビジネスの中核を担う機能として注目されています。

主な業務内容と求められるスキル

業務は大きく「予防保全」「是正保全」「改善提案」の3つに分類されます。予防保全では定期点検や消耗品交換を通じたトラブル防止、是正保全では故障や不具合への迅速な対応、改善提案では顧客の生産性向上に向けた提案活動を行います。

これらの業務を遂行するには、機械・電気の専門知識やトラブルシューティング能力といった技術スキルに加え、顧客対応力や状況判断力などのビジネススキルが不可欠です。現場では予期せぬ事態も多く、技術力とコミュニケーション能力の両方が求められます。

最近では、デジタル技術の活用により、より効率的な保守業務の実現や、データに基づく予防保全の提案なども重要になってきています。フィールドサービスの担当者には従来の技術スキルに加えて、デジタルツールを活用した新たな価値提供も期待されています。

製造業のフィールドサービスが抱える課題

近年、製造業のフィールドサービスはさまざまな課題に直面しています。ここでは主要な課題とその影響について解説します。

人材不足と技術継承の問題

製造業における熟練技術者の高齢化と人材不足は、フィールドサービスの現場で深刻な課題となっています。特に、装置の故障診断や予防保全に関する専門的なノウハウは、長年の経験によって培われる暗黙知であることが多く、若手技術者への継承が困難を極めています。熟練技術者の持つ経験則や直感的な問題解決能力は、マニュアル化が難しく、若手の育成には相当の時間と労力が必要となります。この技術継承の遅れは、顧客へのサービス品質低下にもつながりかねない深刻な経営課題となっています。

顧客要求の高度化と対応時間の短縮

製造業のデジタル化が加速する中、フィールドサービスへの要求は厳しさを増しています。特に半導体や自動車部品などの製造現場では、生産ラインが24時間365日の稼働を前提としており、わずかな設備停止でも重大な損失につながります。そのため、装置メーカーには障害発生から復旧までの時間短縮が強く求められ、予防保全の重要性も急速に高まっています。

安全管理とリスク対策

フィールドサービスでは、さまざまな現場環境での作業が求められるため、安全管理が重要な課題となります。現場での作業安全を確保するため、多くの企業が作業前の危険予知活動やウェアラブルデバイスを活用した遠隔サポート体制の構築を進めています。さらに、AIやIoT技術を活用した作業手順の自動チェックや、定期的な安全講習の実施なども重要な取り組みとなっています。

グローバル展開時の課題

製造業のグローバル化に伴い、フィールドサービスも国際対応が求められています。各国の規制・法令への対応や、言語・文化の違いによるコミュニケーションの課題は、サービス品質に直接影響を与える要因となっています。また、現地技術者の育成や部品供給体制の整備など、グローバルでの一貫したサービス提供体制の構築も重要な課題となっています。

フィールドサービスの品質向上と効率化を実現する 5 つの方法

こうした課題に対する解決アプローチとして、5つの重要な方法を紹介します。

データ駆動型の予防保全体制の構築

IoTセンサーとAIを組み合わせた予防保全システムにより、装置の状態を常時監視し、故障の予兆を早期に検知できるようになっています。センサーによる24時間モニタリングとAI分析を組み合わせることで、最適なメンテナンスのタイミングを予測し、計画的な部品交換を実現します。これにより、突発的な設備停止のリスクを大幅に低減することが可能です。

AIを活用した技術継承システムの導入

熟練技術者の知見をデジタル化し、AIシステムとして蓄積・活用する取り組みが進んでいます。過去の修理履歴やトラブル対応記録をデータベース化し、画像認識技術と組み合わせることで、効率的な故障診断と解決策の提案が可能になります。これにより、若手技術者の早期戦力化と技術継承の効率化を実現できます。

例えば、東京エレクトロンデバイスが提供するFalconAutoPromptを活用することで、以下のような技術継承の仕組みを実現することが可能です。FalconAutoPromptは、産業用途に必要なAIシステムの精度を上げるためのプロンプトエンジニアリングを提供します。

  • 過去の修理履歴やトラブル対応記録のデジタル化
  • 画像認識による故障箇所の自動判定
  • チャットボット形式での対話的なトラブルシューティング
  • 作業手順の動画マニュアル自動生成

このようなAIシステムの導入で、新人技術者の習熟期間が従来3年かかる所を、短縮することも可能でしょう。

リモートサポートによる即時対応

最新のデジタル技術を活用したリモートサポートにより、現場対応の効率化が進んでいます。ARグラスやクラウドベースの遠隔操作システムを活用することで、熟練技術者が遠隔地から現場作業をサポートできます。これにより、移動時間の削減と対応速度の向上を同時に実現しています。

モバイルツールを活用した現場での情報共有

フィールドサービスの現場では、タブレットやスマートフォンを活用した情報共有が標準化されつつあります。作業手順のデジタルマニュアル化や点検結果のリアルタイム入力、部品在庫の即時確認など、現場業務のデジタル化により業務効率が大きく向上しています。

KPIマネジメントによるサービス品質の可視化

フィールドサービスの品質向上には、適切な指標による管理が不可欠です。主要なKPIとして初回解決率(FCR)、平均対応時間(MTTR)、顧客満足度(CSAT)、予防保全実施率が挙げられます。定量的な指標を設定し、継続的にモニタリングすることで、サービス品質の向上とボトルネックの特定が可能になります。

  • 初回解決率(FCR:First Call Resolution)
  • 平均対応時間(MTTR:Mean Time To Repair)
  • 顧客満足度(CSAT:Customer Satisfaction)
  • 予防保全実施率

定量的な指標を設定し、継続的にモニタリングすることで、サービス品質の向上とボトルネックの特定が可能になります。

フィールドサービスの品質向上と効率化の方法に関して詳しくは「部門別ベストプラクティス 製品サポート部門」もご覧ください。

今すぐ始められる!フィールドサービス業務改革 6 つのステップ

フィールドサービス改革を成功に導くためには、段階的にアプローチすることが重要です。ここでは、具体的な実施手順と各ステップでの重要ポイントを解説します。

  • 現場の課題を可視化する:データ収集と分析
    まずは現状の正確な把握から始めます。作業日報のデジタル化を通じて、対応時間、トラブル内容、使用部品、顧客フィードバックなどの基礎データを収集。これらのデータを分析し、頻出トラブルの特定や対応時間の長い案件の要因分析を行います。
  • ベテラン社員の暗黙知をデジタル化する
    技術継承を確実にするため、ベテラン技術者の知識やノウハウを体系的に収集します。作業動画の撮影、手順書の作成、トラブルシューティングのフローチャート化などを通じて、暗黙知を形式知に変換。これらをデジタル化し、ナレッジベースとして整備します。
  • 遠隔支援の段階的導入
    特定の顧客や地域でパイロット導入を行い、効果測定と課題抽出を実施。運用ルールを整備した後、全社展開へと進めます。導入初期は比較的シンプルな案件から始め、徐々に対応範囲を拡大していくアプローチが効果的です。
  • サービス品質の標準化
    統一された作業基準とプロセスを確立します。標準作業手順(SOP)の策定、品質チェックリストの作成、トラブルシューティングガイドの整備を行い、サービス品質の均一化を図ります。
  • 業務支援ツールの選定と導入
    現場のニーズを精査し、適切なツールを選定します。使いやすさ、既存システムとの連携性、カスタマイズ性を重視し、段階的に導入を進めます。導入後のサポート体制も重要な選定基準となります。
  • 効果測定と改善サイクルの確立
    対応時間の短縮率、顧客満足度、コスト削減効果などの定量的な指標を設定し、月次での実績レビューと改善を実施。四半期ごとに方針を見直し、年間計画に反映させる継続的な改善サイクルを確立します。
    これらのステップは、必ずしも順序通りに実施する必要はありません。自社の状況に応じて優先順位を付け、できるところから着手することが重要です。特に初期段階では、小規模な範囲での試行と効果検証を繰り返しながら、徐々に展開範囲を広げていく慎重なアプローチを推奨します。

フィールドサービス改革の6ステップの図


製造業におけるフィールドサービス改革のユースケース

製造業のフィールドサービスが直面する技術継承、リモートサポート、予防保全の課題に対し、生成AIとデジタル技術を活用した革新的な解決事例をご紹介します。

技術継承:生成AIによるノウハウのデジタル化で熟練技術者不足を解消

大手半導体製造装置メーカーでは、熟練技術者の退職に伴う技術継承が課題となっていました。従来は技術者の経験と勘に頼っていた故障診断や保守作業を、過去の対応履歴や製品マニュアルをデジタル化することで、体系的な知識として蓄積。その結果、経験の浅い技術者でも適切な保守対応が可能になり、顧客の装置ダウンタイムを大幅に削減することに成功しています。このような技術継承の課題は、FalconAutoPromptを活用した生成AIシステムで解決することができます。

FalconAutoPromptを活用した生成AIシステムは、装置の状態データやエラー情報を自動で収集・分析し、過去の対応履歴や製品マニュアルと照合。生成AIが熟練者の判断プロセスを再現し、最適な対応手順を提案します。さらに、Microsoft Fabricとの連携により、ナレッジの継続的な蓄積と活用が可能です。

リモートサポート:遠隔での迅速な保守対応で業務効率化を実現

産業用ロボットを製造する企業では、保守要員の人材不足と移動時間の削減が課題でした。そこで導入したのが遠隔保守支援の取り組みです。操作画面の共有と生成AIによる故障診断支援により、現場への移動時間を削減しながら迅速な問題解決を実現。顧客満足度が向上し、保守要員の負担も大幅に軽減されています。このようなリモートサポートの実現には、東京エレクトロンデバイスが提供するFalconLink on Azureが最適なソリューションです。

同ソリューションは、接続キーによる安全な通信環境を確保し、装置の操作画面を共有しながら遠隔での直接操作可能です。さらにFalconAutoPromptを活用した生成AIシステムを併用することにより、生成AIが装置の状態を分析し、オペレーターに最適な対応手順を提示することで、経験の浅い保守要員でも確実なサポートを提供できます。

予防保全:データ活用による故障予知で計画外停止を最小化

工作機械メーカーでは、突発的な装置停止による顧客の機会損失が課題となっていました。装置から収集したデータの一元管理とAIによる予兆検知の仕組みにより、異常の早期発見と最適なメンテナンスタイミングの提案を実現。計画外停止を最小限に抑え、顧客の生産性向上に貢献しています。このような予防保全の高度化は、Microsoft Fabricのデータサイエンス機能として提供されている機械学習を使うことで、故障を予知するAIを開発することが可能です。

生成AI×自社データで実現する“これからの製品サポート”の図


フィールドサービスの将来展望

製造業のフィールドサービスは、テクノロジーの進化とビジネスモデルの変革により、大きな転換点を迎えています。今後数年で予測される変化と、企業が取るべき対応について解説します。

デジタル技術による保守業務の変革

保守業務の現場では、仮想空間を活用した技術研修やAIによる高精度な予知保全が一般化し、熟練技術者の暗黙知がデジタル化されていきます。また、危険作業や定型的な点検業務は自律型ロボットが担うことも考えられるでしょう。それにより、人間はより付加価値の高い判断業務に注力できるようになります。

サービスモデルの進化

従来の「故障したら修理する」という事後保全型のサービスから、予防保全を含む包括的なサブスクリプションモデルへの移行が進むこと考えられます。さらに、装置の稼働データを活用したコンサルティングサービスなど、新たな収益源の創出も期待されます。

企業に求められる対応

こうした変化を見据え、企業にはデジタル技術への投資とビジネスモデルの転換が求められます。特に、デジタル技術の活用基盤を整備し、データドリブンな意思決定プロセスを確立することが、競争力維持の鍵となるでしょう。

生成AIとデジタル技術の活用で、製造業のフィールドサービスは新たなステージへ。

フィールドサービスでのデジタル活用は、もはや選択肢ではなく必須の経営課題となっています。本稿で紹介した、生成AIやリモートサポート技術の活用により、熟練技術者の知見を効率的に継承し、限られた人材でも高品質なサービスを提供することが可能になってきました。まずは自社の課題を可視化し、できるところから段階的にDXを進めていくことが、成功への近道となるでしょう。

東京エレクトロンデバイスは、製品サポート業務のDX化を実現するFalconAutoPromptを提供しています。本ソリューションにより、限られた人員でも高品質な製品サポートを実現します。FalconAutoPromptに関する詳細は以下のページをご確認ください。

https://esg.teldevice.co.jp/iot/azure/falconap/index.html

よくある質問(FAQ)

  • Q1:フィールドサービスとアフターサービスの違いは何ですか?
    A:フィールドサービスは顧客先での保守・メンテナンス活動を指し、アフターサービスはそれを含むより広い概念です。アフターサービスには、電話サポートやリモート対応なども含まれます。
  • Q2:フィールドサービスの人材育成には、どれくらいの期間が必要ですか?
    A:一般的に、基本的な対応ができるようになるまで1~2年、熟練技術者レベルまで3~5年程度必要とされます。ただし、AIツールの活用により、この期間を大幅に短縮できるケースも増えています。
  • Q3:フィールドサービスのデジタル化は、どの程度の投資が必要ですか?
    A:企業規模や導入するシステムによって大きく異なるため、まずはお問い合わせください。
  • Q4:フィールドサービスのKPIとして、最も重要な指標は何ですか?
    A:業種により異なりますが、一般的に「初回解決率(FCR)」が最も重視されます。これは、1回の訪問で問題を解決できた割合を示す指標です。
  • Q5:リモートサポートは、すべての保守業務に適用できますか?
    A:すべての業務では適用できません。物理的な部品交換や高度な調整が必要な場合は、現地での作業が必要です。ただし、診断や簡単な設定変更は、リモートで対応可能なケースが増えています。
  • Q6:AIを活用したフィールドサービスには、どのようなリスクがありますか?
    A:主なリスクとして、データセキュリティ、システム障害時の対応、過度なAI依存などが挙げられます。これらのリスクを軽減するため、適切な運用ルールとバックアップ体制の整備が重要です。

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