Writer:手戸 蒼唯(てど あおい)
IoTとは何か?基本的な構成から導入における課題や人材育成までを網羅的に解説
IoT(Internet of Things)は、モノのインターネットと呼ばれ、様々な物がインターネットに接続され、データの収集や分析、制御などを行うことを指します。IoTは、私たちの生活やビジネスに大きな影響を与える技術として注目されています。本記事では、IoTの基本概念から活用事例、導入のメリット、関連技術トレンド、人材育成まで、IoTに関する様々なトピックについて解説します。
ネクストステップにおすすめ
IoTの基本概念と構成要素
IoTは、Internet of Thingsの略称で、直訳すると「モノのインターネット」と呼ばれ、様々なモノがインターネットに接続され、データの収集や分析、制御などを行うことを指します。
例えば、スマートウォッチは、ユーザーの心拍数や歩数などのデータを収集し、インターネットを通じてクラウドに送信します。このデータは、健康管理アプリなどで分析され、ユーザーの健康状態を把握するために活用されます。
IoTシステムは一般的に、センサー、IoTゲートウェイ、クラウド、ネットワーク、アプリケーションで構成されます。
センサー
温度、湿度、加速度、位置情報など、様々な種類のセンサーを用いてデータを収集します。温度センサー、湿度センサー、加速度センサー、ジャイロセンサー、GPS(全地球測位システム)、RFID(無線自動識別)タグ、カメラなどがあります。
IoTゲートウェイ
センサーで収集したデータをインターネット経由でクラウドに送信したり、クラウドからの指示に基づいてデバイスを制御したりする役割を担います。IoTゲートウェイでは、データの収集と前処理(フィルタリング、集約など)、データの暗号化と送信、デバイス管理(認証、モニタリング、アップデートなど)などの処理が行われます。
クラウド
収集されたデータの保存や分析を行います。大量のデータを処理するために、スケーラビリティの高いクラウドサービスが活用されます。IoTシステムでは、大量のデータが収集されるため、クラウドには高い処理能力とスケーラビリティが求められます。そのため、Microsoft Azure や AWS、Google Cloud Platformなどのクラウドサービスが活用されることが多いです。
- Azure IoT Hubは、IoTデバイスの管理や双方向通信を実現するサービスです。「IoT Hubとは?Azureサービス群での位置づけや特徴から実際の使い方までを紹介します」も参照してください。
- Azure IoT Edgeは、エッジコンピューティングを実現するサービスの一つです。エッジコンピューティングについては「エッジコンピューティングとは?なぜIoT・AI時代に不可欠とされるのか、そのメリットを解説」も参照してください。
- Azure Machine Learningは、機械学習モデルの構築・デプロイを支援するサービスです。「Azure Machine Learningとは?Azure環境で機械学習モデルを独自に構築・運用」も参照してください。また、近年ではOpenAIの活用も注目されています。Azure には、Azure OpenAI Serviceがあります。「Azure OpenAIで何ができる?今注目のAIチャットボットChatGPT/GPT-4が簡単に使える!?」も参照してください。
- Azure Stream Analyticsは、リアルタイムでのデータストリーミング処理を行うサービスです。「Azure Stream Analyticsとは?1秒間に数百万のストリーミングデータをスムーズに処理」も参照してください。
- Azure Blob Storageは、データを格納するストレージサービスの一つです。「Blob Storageとは?AzureのIoT向けサービス群での位置づけや特徴・使い方までを紹介」も参照してください。
- Azure Functionsは、サーバーレスコンピューティングを実現するサービスです。「Azure Functionsとは?サーバーレスによるWebサービス開発のメリットを解説」も参照してください。
ネットワーク
これらを接続するネットワークで、工場とクラウドを接続するインターネット以外に、センサーとIoTゲートウェイなどを接続する社内や工場内のネットワークもあります。「Azureを学ぶ」の「IoTを支える無線通信技術を学ぶ」も参照してください。
アプリケーション
クラウドで分析されたデータを可視化したり、外部のアプリケーションと連携したりするための仕組みです。例えば、Microsoft AzureのPower BIを使うことで、IoTデータの分析結果をダッシュボード化できます。また、分析結果をAPIなどで外部のアプリケーションと連携することで、例えば、設備の予知保全システムに故障予測の結果を連携したり、在庫管理システムにリアルタイムの在庫数を連携したりといったことができます。
これらの構成要素が連携することで、IoTシステムは以下の特徴を実現します。
- モノがインターネットに接続され、データの収集・制御が可能になる
- 収集されたデータの分析により、新たな価値や知見が生み出される
- 分析結果に基づいて、モノの動作を最適化・自動化できる
IoTは様々な産業や社会の変革を促す基盤技術となっており、IoTの市場規模は今後も拡大し続けると予測されています。IDCの調査(出典:IDC「国内IoT市場は物流や医療の分野で需要が高まる ~ 国内IoT市場 産業分野別テクノロジー別予測アップデートを発表 ~」)によると、国内IoT市場におけるユーザー支出額は、2022年の実績で6兆818億円に達しました。さらに、2022年から2027年の年間平均成長率は8.6%と予測され、2027年には9兆1,877億円に達する見込みです。
IoTの活用事例と応用分野
IoTは様々な分野で活用されており、以下のような事例が挙げられます。
製造業
- 設備の予知保全、生産工程の最適化、品質管理の自動化
農業
- 環境モニタリング、精密農業、スマート畜産
医療・ヘルスケア
- 遠隔診療、ウェアラブルデバイスによる健康管理、医療機器の遠隔監視
小売・流通
- 在庫管理の最適化、需要予測、スマート店舗
スマートシティ・スマートホーム
- エネルギー管理、交通最適化、セキュリティ強化
これらは一例であり、IoTはあらゆる産業において、データの収集・分析・活用を通じて、業務の効率化や新たな価値の創出に貢献しています。IoTの応用範囲は今後さらに拡大していくことが予想され、様々な社会課題の解決にも役立つと期待されています。なお、「東京エレクトロンデバイスのAzure導入実績・事例」もぜひご覧ください。
IoT導入のメリットと効果
IoT導入により期待できるメリットをまとめます。
業務効率化とコスト削減
- 業務の自動化・効率化による人件費の削減
- 設備の予知保全による修理コストの削減
データ収集と分析による意思決定の改善
- リアルタイムなデータ収集・分析による生産性の向上や品質の改善
- 顧客行動データの分析によるマーケティング施策の最適化
新たなビジネスモデルの創出
- データを活用した新サービスの提供(製品のサービス化など)
- データ分析に基づくコンサルティングサービスの展開
顧客満足度の向上
- パーソナライズされたサービスの提供による顧客満足度の向上
- 製品やサービスの品質向上による顧客ロイヤルティの強化
社会課題の解決への貢献
- エネルギー管理の最適化による環境負荷の低減
- 高齢者見守りサービスなどによる社会福祉の向上
IoTとインダストリー4.0の関係性
これらのメリットは、IoTが実現するデータの収集・分析・活用によってもたらされます。IoTは、インダストリー4.0における重要な要素技術の一つであり、製造業のみならず、様々な産業でデジタルトランスフォーメーションを推進する基盤となっています。
IoTとインダストリー4.0は密接に関連しており、IoTによるデータの収集と分析は、サイバーフィジカルシステム(CPS)の構築、スマートファクトリーの実現、バリューチェーンの最適化など、インダストリー4.0の中核をなす概念の実現に不可欠です。また、IoTはインダストリー4.0の文脈だけでなく、様々な産業や社会の変革を促す起爆剤としても機能しています。
IoTに関連する技術とトレンド
IoTに関連する技術として、以下のようなものがあります。
AIとIoTの融合
AIとIoTとを組み合わせることで、より高度な分析や制御が可能になります。
例えば、工場では、IoTで収集した設備のデータをAIで分析することで、設備の異常を早期に検知し、予防保全を実現できます。また、小売店舗では、来店客の行動データをAIで分析することで、最適な商品レコメンデーションを提供できます。
ビッグデータ解析とIoT
IoTでは、大量のデータが生成されるため、ビッグデータ解析技術が重要になります。
例えば、製造業では、設備のセンサーデータを分析することで、生産性の向上や品質の改善に役立てることができます。また、小売業では、販売データや在庫データ、顧客データなどを分析することで、需要予測の精度向上や在庫最適化が可能になります。
5G通信とIoTの関係性
5G通信は、高速・大容量・低遅延・多数同時接続という特徴を持つ次世代の通信技術です。
IoTでは、大量のデータを高速に転送する必要があるため、5G通信の活用が期待されています。
例えば、自動運転車では、車両間通信や車両とインフラストラクチャー間通信に5Gが活用され、リアルタイムでの情報共有や制御が可能になります。また、スマートシティでは、5Gを活用することで、高解像度の監視カメラ映像をリアルタイムで分析し、安全性の向上や犯罪の防止に役立てることができます。
ブロックチェーンとIoTの組み合わせ
IoTとブロックチェーンを組み合わせることで、データの信頼性や セキュリティを確保できます。
例えば、サプライチェーンでは、IoTで収集した商品の流通履歴データをブロックチェーンで管理することで、データの改ざんを防止し、トレーサビリティを向上できます。また、スマートコントラクトを活用することで、IoTデバイス間の自動取引やマイクロペイメントが可能になります。
セキュリティとプライバシーの課題
IoTでは、大量のデータが収集・分析されるため、セキュリティとプライバシーの確保が重要な課題となります。
デバイスの脆弱性を突いたサイバー攻撃や、データの不正利用などのリスクがあるため、適切なセキュリティ対策が必要です。
具体的には、以下のような対策が求められます。
- デバイスの認証と暗号化通信
- ネットワークの分離とセグメンテーション
- ソフトウェアの定期的なアップデート
- 不正アクセスの検知と防止
- データの匿名化と暗号化
- プライバシーポリシーの策定と遵守
こうしたセキュリティ対策を講じることで、IoTシステムの安全性と信頼性を確保することが重要です。「IoTセキュリティの基本と実践 ~サイバー攻撃から企業を守る7つのポイント~」もぜひお読みください。また、「スマートファクトリー化で意識すべきセキュリティ」(ダウンロード資料)にも参考になる情報があります。
以上が、IoTに関連する主要な技術とトレンドです。これらの技術を適切に組み合わせ、活用することで、IoTのポテンシャルを最大限に引き出すことができるでしょう。
IoT人材育成の重要性
IoTプロジェクトを成功させるには、技術面での対応だけでなく、IoTを適切に活用できる人材の育成が重要です。
IoT人材に求められるスキルセット
IoT人材には、以下のようなスキルセットが求められます。
- IoTの基本的な知識と理解
- センサーやデバイスの知識
- ネットワークとセキュリティの知識
- クラウドとビッグデータ処理の知識
- AIとデータ分析の知識
- プロジェクトマネジメントスキル
- ビジネス活用のための知識
社内でのIoT人材育成プログラム
これらのスキルを備えた人材を育成するには、以下のような、体系的な教育プログラムやIoT人材を育成する仕組みが必要です。
- IoT基礎研修:IoTの基本概念や関連技術について学ぶ
- ハンズオントレーニング:実際にIoTデバイスやクラウドサービスを使った演習を行う
- プロジェクトベース学習:実際のIoTプロジェクトに参加し、実践的なスキルを身につける
- 外部セミナー・勉強会への参加:外部のセミナーや勉強会に参加し、最新の技術動向を学ぶ
- 資格取得の奨励:IoT関連の資格取得を奨励し、スキルアップを図る
外部研修・教育機関の活用
ただ、社内ですべてのプログラムを用意するためには手間や時間がかかります。現在は多くの外部の研修プログラムがありますので積極的に活用することをおすすめします。例えば、以下のような外部リソースが利用できます。
- 大学や専門学校のIoT関連講座
- オンライン学習プラットフォーム
- ベンダー主催のトレーニングプログラム
こうした外部リソースを活用することで、社内だけでは得られない知見やスキルを習得することができます。
東京エレクトロンデバイスでは、無料で閲覧できる動画教材「はじめての方におすすめの自宅でできるAzure IoT入門」(1~3は登録無しで、4~7は無料登録で閲覧可能です。)や、個別有償トレーニング(オンラインまたはオンサイト)を提供しています。
IoT導入でよくある3つの課題と解決のヒント
実際にIoTを導入する際には、様々な課題に直面します。ここではよくある課題と解決のヒントを紹介します。
IoTシステムの複雑性
IoTシステムは、デバイス、ネットワーク、クラウド、アプリケーションなど、多くの要素で構成される複雑なシステムです。この複雑性ゆえに、システムの設計、開発、運用に多くの工数とコストがかかります。
解決のヒント:
- 適切なアーキテクチャ設計によって、システムの複雑性を管理する
- クラウドサービスやSaaSの活用によって、開発・運用の負荷を軽減する
- 段階的な導入によって、リスクと コストを抑えながらシステムを拡張していく
データの品質と活用
IoTシステムでは大量のデータが生成されますが、そのデータの品質が低い場合、十分な価値を生み出すことができません。また、収集したデータを適切に分析・活用できないと、IoT導入の効果を最大限に引き出せません。
解決のヒント:
- センサーの選定や設置場所の最適化によって、データの品質を向上させる
- データクレンジングや前処理によって、データの品質を高める
- ビッグデータ基盤と分析ツールを活用して、データの活用を促進する
- 分析結果をビジネスにフィードバックし、継続的な改善を図る
セキュリティとプライバシー
IoTシステムでは、大量のデータが収集・処理されるため、セキュリティとプライバシーのリスクが高くなります。不適切な対策は、データ漏洩や不正アクセス、システム停止など、深刻な被害につながります。
解決のヒント:
- デバイスの認証やアクセス制御、通信の暗号化など、多層的なセキュリティ対策を講じる
- 定期的なセキュリティ監査と脆弱性診断によって、リスクを洗い出し、対策を強化する
- プライバシーポリシーを策定し、利用者に適切に説明する
- データの匿名化や秘密計算など、プライバシー保護技術を活用する
今後ますます普及が見込まれるIoT
実本記事では、IoTの基本概念から活用事例、導入のメリット、関連技術、人材育成まで、IoTに関する様々なトピックを網羅的に解説しました。
IoTは、様々な産業分野でデジタルトランスフォーメーションを推進する重要な技術です。IoTを適切に活用することで、業務効率化、コスト削減、新たなビジネスモデルの創出など、多くのメリットを得ることができます。
一方で、IoTを導入するには、技術面での対応だけでなく、人材育成も重要です。社内での育成プログラムや外部リソースの活用など、多角的にIoT人材の育成を進めていくことが求められます。
世界のIoTデバイス数は、2023年の159億から2033年には396億と約2.5倍になると予測されており(出典:statista「Number of Internet of Things (IoT) connections worldwide from 2022 to 2023, with forecasts from 2024 to 2033」(英語))、IoTは今後ますます普及・発展していくでしょう。本記事を参考に、Microsoft Azure などサービスを活用したIoTで、ビジネスの変革と成長につなげていただければ幸いです。
IoTとMicrosoft Azureを活用したビジネス支援 - 東京エレクトロンデバイス(TED)のサービス
東京エレクトロンデバイス(TED)では、IoTとMicrosoft Azureを活用したビジネス支援サービスを提供しています。IoT導入のコンサルティングから、Microsoft Azureのライセンス販売(CSP)、導入支援、人材トレーニングまで、幅広いサポートを行っています。
TEDは、IoTプロジェクトの共同検証を通じてノウハウを共有するコミュニティ「IoTビジネス共創ラボ」の幹事会社でもあり、多くのビジネスパートナーとの連携により、お客様のIoTビジネスの成功をサポートします。
IoTとMicrosoft Azureを活用したビジネスにご興味のある方は、以下のページや資料をご覧いただき、ぜひTEDまでお問い合わせください。
IoTについてのFAQ
- Q1. IoTとAIの違いは何ですか?
- IoTはモノのインターネット化を指す言葉で、デバイスのネットワーク接続やデータ収集に関する技術を指します。 AIは人工知能を指す言葉で、収集したビッグデータを分析し、学習する技術のことです。 IoTとAIは 別の技術ですが、IoTで得られた膨大なデータをAIで分析し、活用することで大きな価値を生み出すことができます。
- Q2. IoTとビッグデータの関係性は?
- IoTシステムでは大量のデータが生成されるため、そのデータを分析・活用するためにはビッグデータ技術が不可欠です。例えば、膨大な量のセンサーデータをリアルタイムで処理し、異常検知や予測を行うには、ビッグデータ基盤とストリーム処理技術の活用が求められます。
- Q3. IoTプロジェクトを成功させるポイントは?
- 明確なビジネス目標の設定、適切な要件定義、段階的な導入、継続的な改善などが重要です。 IoT導入はビジネス変革のためのプロジェクトであるため、技術的な側面だけでなく、ビジネス的な観点からプロジェクトを推進することが求められます。「PoC での“つまずき”にはワケがある!」(ダウンロード資料)や「IoT導入を成功させる秘訣!!」(ダウンロード資料)もぜひご参照ください。