Writer:手戸 蒼唯(てど あおい)
Microsoft Fabricとは?Microsoft Fabricの概要や特徴、ユースケースなどをくわしく解説
Microsoft Fabricは、主にデータ分析とビジネスインテリジェンスに特化した次世代型統合分析プラットフォームです。ビッグデータの時代において、企業が直面するデータの収集、統合、分析、可視化といった課題に対する包括的なソリューションを提供します。
本記事では、Microsoft Fabricの概要や特徴、そのメリット、具体的なユースケースについて詳しく解説します。
Microsoft Fabricとは
Microsoft Fabricは、データ分析とAIを統合した包括的なSaaS型の統合分析プラットフォームです。2023年に一般提供が開始されたこのサービスは、データの取り込みから処理、分析、可視化までを一元化し、企業のデータ活用を効率化します。Power BI、Azure Synapse Analytics、Azure Data Factoryなどの機能を統合し、シームレスなデータ管理を実現。さらに、AIと機械学習の機能も備えており、高度な分析や予測モデルの構築も可能です。クラウドベースで提供され、スケーラビリティと柔軟性に優れているため、企業規模や業種を問わず幅広く活用できます。
Microsoft Fabricと関連して、IoT関連を中心としたMicrosoft Azureサービスの代表的なものについて知りたい方は、Azure機能紹介のコラムをご覧ください。(リンク先のページで「コラムをカテゴリーで探す」をクリックすると一覧が表示されます。)
Microsoft Fabricの特徴
Microsoft Fabric には、効率的なデータ活用を実現する多くの特徴があります。主な特徴としては以下の5つです。
- SaaS型サービス
- データ活用基盤としての統合性
- AIによるアシスト機能
- Microsoft Power BIとの高度な連携
- クラウドベースのサービス
まず、Microsoft Fabricの最大の特徴は、SaaS型サービスであることです。構築・メンテナンス・拡張にかかる時間とコストを極限まで低減できます。
次に、データ活用に必要なすべての機能をカバーし、あらゆるデータをつなぐデータハブの役割を担えるという、データ活用基盤としての統合性も大きな特徴の一つです。従来は複数のツールやプラットフォームを使用して行っていたデータ関連の作業を、Microsoft Fabricに統合できます。これにより、データエンジニア、データアナリスト、データサイエンティストなど、異なる役割を持つチームメンバーが同じプラットフォーム上で協働できるようになり、作業の効率化とコミュニケーションの円滑化が図れます。
3つ目の特徴としては、AIによるアシスト機能が挙げられます。Azure OpenAI Serviceベースの生成AI機能である、「Copilot」がデータ活用の生産性を高めます。例えば、レポートの作成や要約、計算などのタスクを行う際はCopilotに伝えたり質問をしたりするだけで、残りの作業はCopilotが実行します。また、データフローやパイプラインの作成、機械学習モデルの構築なども可能です。これにより、作業時間の大幅な短縮が期待できるでしょう。
さらに、Microsoft Power BIとの高度な連携も大きな特徴です。Microsoft Fabricを介して処理されたデータを、Power BIで可視化することで、直感的にインサイトを導き出すことができます。これにより、データドリブンな意思決定プロセスが大幅に強化されます。
なお、セキュリティとコンプライアンスの面においても、Microsoft Fabricは高い水準を維持しています。企業レベルのセキュリティ機能を備え、さまざまな業界標準や規制に準拠しているため、機密性の高いデータを扱う企業も安心して利用できます。
最後に、クラウドベースのサービスであることも、Microsoft Fabricの大きな特徴の一つです。ユーザーは必要に応じて、Microsoft Fabricの容量などのリソースを簡単にスケールアップまたはスケールダウンできるため、コストの最適化が図れます。また、常に最新機能やセキュリティのアップデートが利用できるため、急速に進化するデータ分析とAI技術を使ったデータ活用基盤を維持できます。
このようにMicrosoft Fabricは、データとAIを中心としたデジタルトランスフォーメーションを推進する企業にとって、非常に強力なツールです。データの価値を最大限に引き出し、ビジネスの競争力を高めたい組織にとって、Microsoft Fabricは理想的なソリューションとなるでしょう。
Microsoft Fabricの構成要素
ここでは、Microsoft Fabricを構成する主要コンポーネントを紹介します。
OneLake
Microsoft Fabricの中核を成すOneLakeは、SaaSベースのデータレイクです。すべてのFabricテナントに組み込まれ、自動的に利用可能になります。OneLakeは、Microsoft 365アプリケーションがOneDriveに接続されているのと同様に、すべてのMicrosoft Fabricワークロードと自動的に連携します。
OneLakeの特徴は、直感的なデータハブとしての機能です。データの検出、共有、ガバナンス、コンプライアンスのために自動的にインデックスが作成され、効率的なデータ管理を実現します。開発者、ビジネスアナリスト、一般ユーザーなど、さまざまな立場のユーザーにサービスを提供し、データサイロの問題を解消します。
このようにOneLakeがあることで、異なるコンピューティングエンジン間でデータのやり取りを行う場合でもデータのエクスポートやインポートの必要がないため、データ形式の整形を省略できたり、部門間のデータ連携が容易にできたりするなど多くのメリットをもたらします。
技術的には、Azure Data Lake Storage Gen2(ADLSg2)をベースに構築されており、ADLSg2のエコシステムとの互換性を保っています。最も注目すべき機能は「ショートカット」で、これによりデータの不要な移動や複製を避けつつ、ユーザーやアプリケーション間でのデータ共有が容易になります。また、この機能を使用することで、必要なデータを漏れなくデータ分析に回すことができるため、より正確で包括的な情報に基づいた、効果的な意思決定が可能になります。
さらにADLSg2やAmazon S3、Google Storageなどのデータレイクストレージを仮想化し、クラウド間でのデータ作成と分析を可能にします。
Data Factory
Data Factoryは、多様なデータソースとの連携を可能にする強力なデータ統合ツールです。150以上のコネクタを提供し、クラウドとオンプレミスのデータソースに接続できます。ドラッグアンドドロップ形式のインターフェースでデータ変換を容易に行え、複雑なデータパイプラインの構築と調整が可能です。これにより、企業は効率的にデータを収集、変換、移動できます。
Synapse Data Engineering
Synapse Data Engineeringは、Apache Sparkを活用した高度なデータ処理環境を提供します。優れたオーサリング体験と、即座に利用可能なライブプールが特徴です。これにより、大規模データの処理や変換を効率的に行えます。また、チーム間での共同作業を促進し、プロジェクトの生産性を向上させます。
Synapse Data Science
Synapse Data Scienceは、データサイエンティスト向けの包括的な環境を提供します。高度なAIモデルの構築、チーム間の共同作業、機械学習モデルのトレーニング、デプロイ、管理までをカバーするエンドツーエンドのワークフローを実現します。これにより、データサイエンスプロジェクトの効率化と、AIモデルの迅速な開発・展開が可能になります。
Synapse Data Warehouse
Synapse Date Warehouseは、高性能なSQLエンジンを基盤とした先進的なData Warehouseソリューションです。レイクハウスとデータウェアハウスの機能を統合し、オープンデータ形式をサポートしています。大規模データの高速分析や複雑なクエリの実行が可能で、ビジネスインテリジェンスやデータ分析のニーズに応えます。
Synapse Real-Time Analytics
Synapse Real-Time Analyticsは、ストリーミングデータの高速処理と分析を実現するツールです。IoTデバイス、テレメトリ、ログなどから生成される大量の半構造化データをリアルタイムで処理し、低遅延で分析できます。これにより、即時的なデータ洞察の獲得や、リアルタイムでのビジネス意思決定が可能になります。
Power BI
Power BIは、直感的なデータ可視化とAI駆動型分析を提供します。ビジネスアナリストやユーザーが容易にデータから洞察を得られるよう設計されています。Microsoft 365との深い統合により、ユーザーは日常的な業務環境で関連する分析情報にアクセスできます。データドリブンな意思決定を全社的に促進します。 Power BIについては「Power BIとは? IoT向けサービス群での位置づけや活用事例などを解説」をご参照ください。
Data Activator
Data Activatorは、リアルタイムのデータ監視と自動アクション機能を提供します。指定されたデータパターンを検出すると、通知を送信したり、事前に設定したアクションを自動的にトリガーしたりします。コードレスで操作可能なため、技術的な専門知識がなくても高度なデータ監視と自動化が実現できます。
Microsoft Fabricの具体的ユースケース
Microsoft Fabricは、さまざまな業界や用途で活用されています。
以下にいくつかの具体的なユースケースを紹介します:
- 製造業:IoTセンサーからのデータをリアルタイムで分析し、生産ラインの最適化や予防保全を実現。
- 金融サービス:取引データや顧客行動データを分析し、リスク管理や個別化されたサービス提供に活用。
- 小売業:POSデータやウェブサイトのアクセスログを統合分析し、需要予測や在庫最適化を実現。
- ヘルスケア:患者データや医療機器のデータを統合し、個別化された治療計画の策定や疾病予測に活用。
- 公共サービス:各種行政データを統合・分析し、効率的な政策立案やサービス提供を支援。
これらのユースケースでは、Microsoft Fabricの持つデータ統合能力、リアルタイム分析機能、高度な可視化ツールが効果的に活用されています。 Microsoft Fabricに密接に関連するIoTについては、「IoTにおけるデータ収集とは。企業の抱える課題と解決策を解説」をご覧ください。
なお、似たような名前のサービスにAzure Service Fabricがあります。ただし、 「Azure Fabric」という正式な製品は存在しません。これは以下のいずれかを指している可能性があります:
- Microsoft Fabricの誤称(Microsoft FabricはAzure上で動作するため、誤って"Azure Fabric"と呼ばれることがあります)
- Azure Service Fabricの略称
ご注意ください。
Microsoft Fabricを活用して業務効率化を行おう
Microsoft Fabricは、データ分析とAIを統合した包括的な次世代SaaS型の統合分析プラットフォームです。データの取り込みから処理、分析、可視化まで一元化し、企業のデータ活用を効率化します。ほかにもAIのデータ分析基盤としての側面やPower BIとの連携、クラウドベースの柔軟性、高度なセキュリティ機能も特徴です。 このようにMicrosoft Fabricを活用することで企業のデータ戦略を強力に支援し、現代のデータ分析ニーズに応える総合的なソリューションとして、ビジネスの競争力強化に貢献します。
Microsoft Fabricについてさらに知りたい方はぜひ、一度ご相談ください。
また、製造業における次世代データ活用基盤については、「AI時代のデータ活用基盤『Microsoft Fabric』」もご参照ください。
Azure Fabric、Microsoft Fabricに関するFAQ:
Q. Azure Fabricとは何ですか?
"Azure Fabric"という正式な製品は存在しません。Microsoft FabricかAzure Service Fabricのいずれかを指していることが多いです。 Microsoft Fabricは上述したように、主にデータ分析とビジネスインテリジェンスに特化した次世代型統合分析プラットフォームです。一方でAzure Service FabricとはAzureが提供する、マイクロサービスを構築するための分散処理プラットフォームのことを指します。そのため両者には大きな違いがあることを理解しておきましょう。
Q. Microsoft FabricとAzure Synapse Analyticsの違いは何ですか?
Microsoft FabricはAzure Synapse Analyticsを含む複数のサービスを統合した包括的なプラットフォームです。Microsoft Fabricは、データの収集から分析、可視化までのプロセスをより一元化し、使いやすくしています。Azure Synapse Analyticsはデータウェアハウスとビッグデータ分析に特化していますが、Microsoft FabricはそれらにAI機能や他のツールを加えてより広範囲なデータ分析ニーズに対応しています。 Azure Synapse Analyticsについては「Azure Synapse Analyticsとは?ペタバイトサイズのビッグデータを効率よく分析」をご参照ください。
Q. Microsoft Fabricを導入する際のコストはどのように決まりますか?
Microsoft Fabricのコストは使用するリソースや機能によって変動します。一般的に、データ処理量、ストレージ使用量、計算能力の使用時間などが課金の基準となります。また、ライセンスモデルによっても異なる場合があります。正確な価格については、Microsoftの公式ウェブサイトで最新の情報を確認するか、東京エレクトロンデバイスにご相談ください。
Q. Microsoft Fabricを使用するために必要なスキルセットは何ですか?
Microsoft Fabricは幅広いユーザーを対象としているため、必要なスキルセットは役割によって異なります。データアナリストにはSQL、Power BIの知識が役立ちます。データエンジニアにはApache Spark、データパイプラインの知識が必要です。データサイエンティストにはPython、R、機械学習の知識が求められます。ただし、ノーコード/ローコードツールも提供されているため、専門的な技術知識がなくても基本的な分析やレポート作成は可能です。
Q. Microsoft Fabricはオンプレミス環境でも使用できますか?
Microsoft FabricはSaaS(Software as a Service)型のクラウドサービスとして提供されているため、基本的にはクラウド上で動作します。しかし、オンプレミスのデータソースとの接続は可能です。また、ハイブリッドクラウド環境での運用にも対応しており、オンプレミスとクラウドのデータを統合して分析することができます。
Q. Microsoft Fabricのデータセキュリティ対策はどうなっていますか?
Microsoft Fabricは企業レベルのセキュリティ機能を備えています。具体的には、暗号化(保存時および転送時)、アクセス制御、監査ログ、コンプライアンス証明書(GDPR、HIPAA等)への対応などが含まれます。また、Microsoft Entraと統合されたアイデンティティ管理や、きめ細かなデータガバナンス機能も提供しています。
Q. Microsoft Fabricは他のクラウドプロバイダーのサービスと連携できますか?
はい、Microsoft Fabricは他のクラウドプロバイダーのサービスとの連携が可能です。特に、OneLakeの「ショートカット」機能を使用することで、Amazon S3やGoogle Cloud Storageなどのデータレイクストレージを仮想化し、クラウド間でのデータ作成と分析が可能になります。これにより、マルチクラウド環境でのデータ統合や分析が実現できます。